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背後の足音 ヘニング・マンケル

夏至前夜(ミッドサマー・イブ)に自然保護区の公園内で18世紀の服装でひそかにパーティーをしていた若者3人が殺された。しかし、家族には、ヨーロッパに行くと絵はがきが届いた。
2通目の絵はがきを受け取ったその母親の一人が、警察にその絵はがきは娘が書いたものではないと訴え、捜査を求めてきた。
そんな中、イースタ署の犯罪捜査官であるスヴェードベリが射殺された。
イースタ署の犯罪捜査官である、クルト・ヴァランダーは、スヴェードベリの調査が殺される前に取得していた夏休みの間、当時、殺されていることも明らかになっていなかった若者たちについて同僚にも告げずに捜査していたことがわかった。

 
Amazonの『背後の足音 上』のページ

ヴァランダーにとって、仕事上の付き合いだと考えていたスヴェードベリが、生前ヴァランダーを親友と考えたいたことを死後になって知る。
このやるせなさ。ヴァランダーは、感傷に浸る間もなく精力的に捜査を続けるのだが、それはずっと心に残っている。

たしかなことが一つある、とヴァランダーは心でつぶやいた。
スヴェードベリが死んでからまだ一日ほどしか経っていない。が、われわれは生きていたときより彼についてずっと多くのことを知るに至っている。



捜査の手が足りず、ハンソンにハンソンかフーグルンドのどちらかに来てほしいと言うシーン。ハンソンにどちらに来てほしいか問われて、フーグルンドに来てほしいのにどちらでもいいと答える。
それで来たのはフーグルンド。

ハンソンはヴァランダーが本当はどっちに来てほしいかわかったのかもしれない。



ヴァランダーや登場人物の感性や考え方は身近に感じられた。

とは言え、ヴァランダーは、糖尿病なのに隠す。ニーベリも巻き込んで違法行為と知りながら、被疑者の家の鍵を破って捜索する。射撃の名手の犯人が乗っているかもしれないボートへの乗り込みを同行のマーティンソンを騙してまで単独で行ってしまうなど、相変わらずの無茶は理解できないが。

そして最大の無茶は、犯人から撃たれ銃弾が頬をかすめたというのに逃げずに捕まえようとするところ。
ピストルも携帯電話も警察署の自室の机の上に置いてきてしまったという状況で。
逃げないなんて馬鹿じゃんとも思ったけど、それが警察官魂ってもんかもね、ここは。

我らがエッバが、その親切心から大ピンチというのはヴァランダーの危機以上にはらはらした。ヴァランダーは主人公だからたぶん死なない。でもスヴェードベリも殺されたんだからエバが殺される可能性もあると考えられたから。

ヴァランダー自身が殺人者に狙われるというのはシリーズで頻繁に使われすぎだと思う。狙われる理由も説得力がない。クライムノベルでは、それがお約束だからしかたないのかな。

だけど、インタビューするのに筆記用具を忘れていたり、話の要点を書いたメモが毎度どこかにいっちゃったり、携帯など重要なものを忘れちゃったりするのは、不自然とも馬鹿とも思わない。自分がそうだからね。
THEME:海外小説・翻訳本 | GENRE:小説・文学 |

閉じられた棺 ソフィー・ハナ

ソフィー・ハナによる、エルキュール・ポアロ第2作。

スコットランドの刑事、キャッチプールは、アイルランドの児童向け推理小説作家、レディ・アセリンダ・プレイフォードの屋敷に招かれた。そこには友人のポアロも招かれていた。
着いたその日のディナーの席で、レディ・プレイフォードは、破天荒な遺産相続内容の更新を告げる。
その晩、新たな相続人となった者が殺された。


Amazonの『閉じられた棺』のページ

読み始めはいただけなかった。
例によって、読みにくい文体。(推定される理由はあえて語らない)
難病で余命が幾ばくもないという人物にひどい物言いの人々。
屋敷の主もなんだかあえてトンチンカンな人物になっているようで、面倒くさい。

それが読んでいると、面白くなってくる。
当初考えられていた死因が実は違っていたり。
検死審問後に、驚くべき事実が浮き上がったり。
それで、被害者に対する意識が自分の中でがらりと変わるのも面白い。

これを読み始めた頃か、読み始めるちょっと前かに、イギリスは謎解きの本格ミステリーがお家芸というような記述を読んだ。ほんと、そうだね。

レディ・プレイフォードがある人物を愛しながらも、殺されるかもしれないという心理。私にはわからないなんて思っていたけど、よく考えたら、そんなことなかった。
昨日の仕事で某グローバルエンタメ施設企業のおもてなしに関するちょっといい話が出て来て知らずに涙ぐんでいた。でも、実は最初に読んだ時は私がそのようなもてなしを受けるのは嫌かも、やられてむしろ悲しい気持ちにならなかっただろうかと思ったんだよね。
人間、歳とともに感情と理性が同時に別々に働くんだね、とレディ・プレイフォードにシンパシー。

そして、奔放なようでいて義理堅いレディと、彼女に忠信を尽くす存在もいいなあと思った。
チャッチプール君の控え目な性格といい、これはイギリスないしはUKの味じゃなかろうか。好きな味だ。

舞台のクロナキルティはここのようだ。
そもそも、ポアロとキャッチプールはロンドンから来ているわけだし、もう一つの舞台であるオックスフォードもイングランドであり、イギリスであり別の国になるのだが、そういう垣根が一切なく描かれている。
東京の人間にとっての松山ぐらいの感じなんですかね。距離だとそんな感じ。

最初っから文庫って助かる~。軟弱すぎるけど、単行本じゃ重くてつらいのよね。

THEME:ミステリ | GENRE:小説・文学 |

五番目の女 ヘニング・マンケル

鳥を愛する隠居した男、ホルゲ・エリクソンが殺された。次に蘭の愛好家、ユスタ・ルーンフェルトが誘拐される。
イースタ署の警部、クルト・ヴァランダーらが捜査にあたる。

 
Amazonの『五番目の女 上』のページ

まず、書いておかないと忘れるので、本作の核と思えるものについて。
女性への虐待と自警団。
スウェーデンでは、実際この頃(90年代)に自警団が社会問題になっていたという。この場合の自警団とは日本人が想像するものとは異なり、警戒にあたるだけではなく、自ら処刑(私刑)を実施してしまうというもの。
この二つが掛けられて本作の骨子を形成している。

鳥を愛し、鳥の詩のみを書く男と、蘭を愛好し、アフリカまで旅行するという男。殺人などの対象となりそうもない人物が…というのが、引き込まれていった要素の一つでもあるかな。
また、読みだせば程なくわかることなのでばらしてしまうと、犯人は女性。
これは、もう一つの引き込まれた要素。自分が女だから、親しみやすい気がする。
ただし、この犯人の考えることはほとんど理解できなかったけど。

女性といえば、シリーズが進むにつれ、女性の活躍率が高まりつつあるかな。これはシリーズ第6作。
フーグルンドは、今や片腕。
前作の途中だったか、イースタ警察署の署長の女性になったし。リーサ・ホルゲソン。
娘のリンダもちょくちょく登場。
その中でも、地道にいいなあと思うのは、受付のエッバ。
父親と行ったローマ旅行で必死に日焼けしてきたヴァランダーに対し、
「九月でもイタリアならそんなに日に焼けることができるのね?」
なんて、ヴァランダーが一番言ってほしいことを言ってあげる。すごいよ。

その父親。ヴァランダーとは長いことわだかまりがあって、ローマ旅行で打ち解けあえたと思ったのに…ね。

ヴァランダーは、バイバ・リエパを呼び寄せて、一軒家に住んで、黒ラブを飼うなんて夢を描いている。
娘のリンダに、他人と住むには不向きと言われても、そう願い続けている。
さて、どうなるんだろう。

最後に、
本作が良かったと思う点は、チームワーク機能が高まっているところ。ヴァランダーがイースタ署の刑事の特徴や役割から、適切な仕事を振る。ストックホルム等の警察署からの応援の刑事、近隣の警察署の刑事と協力して、効率よく捜査を進める。
それで、それぞれの刑事の仕事や気付きから、難解な事件が解決につながるというのは、ヴァランダーがひとりで事件を解決するというより、現実味がある。

THEME:海外小説・翻訳本 | GENRE:小説・文学 |

目くらましの道 ヘニング・マンケル

夏の休暇が間近い6月21日下旬にイースタ警察署の警部、クルト・ヴァランダーは、農夫からの通報を受けて菜の花畑に居座っているという不審な女を見に行った。ヴァランダーが見たところ女はまだ少女であった。その少女は、ヴァランダーの目の前で焼身自殺をした。
翌22日に元法務大臣が殺されているのが発覚し、その死体から頭皮が剥ぎ取られていた。
犯人は、自分を伝説の人物、ジェロニモともフーヴァーとも同一視し、殺人を自分が行うべき復讐と考え次の犯行にかかろうとしていた。

 
Amazonの『目くらましの道 上』のページ

1994年6月21日から7月8日までの物語。夏至祭を挟んだ、スウェーデンの最も素晴らしい季節に猟奇的でさえある殺人事件。それも連続殺人。
ヴァランダーの心理描写にこの季節感がさりげなく織り込まれる。
ちょうど今の季節。入っていけます。

ヴァランダーがアパートの地下のランドリー室を予約して、洗濯をする
夏至の前日の夜通しのパーティー
菓子パンをふるまう所長代理
事件に追われる
こういった事件捜査以外のスウェーデンを知れるところも大きな魅力。

ヴァランダーは、『『笑う男』の事件解決以来、(『リガの犬たち』で知り合った)バイバ・リエバと遠恋を続けてきたらしい。それで、今回、7月にこちらで落ち合って、ヴァランダーが鬱症状で休職中に何度か過ごしていたデンマークのスカーゲン(『笑う男』)で休暇を過ごすという設定。
連続殺人事件となって、ヴァランダーは朝から晩までまるで時間がなくなり、バイバの留守電のメッセージにも、留守中に署にかかってコールバックするようにという伝言も無視。というか、事件の解決の目処も立たないまま、伝える言葉を見つけられず、電話をかけることができない。
人として男として、ダメダメだよねえ。

肝心の内容は、英国推理作家協会の文学賞、ゴールド・ダガー賞受賞というだけあり、よどみなく読める。上下巻2冊になったけど、長さは感じなかった。
ネタバレになるけど、本編のテーマは少女買春組織。冒頭、誕生から8ヶ月で洗礼を受けたドロレス・マリア・サンタナには幸せになって欲しいと思わされるのに、その後の展開は、残酷すぎる。
THEME:海外小説・翻訳本 | GENRE:小説・文学 |

笑う男 ヘニング・マンケル

イースタ署の警部、クルト・ヴァランダーは、完全な正当防衛ながら人を殺したことから鬱症状から抜け出せず1年以上にわたり休職していた。
デンマークの海岸沿いの町、スカーゲンで療養中、イースタで付き合いのあった弁護士、ステン・トーステンソンに訪ねて来られ、父親の死について調べるように頼まれた。自動車事故として処理されたが、ステンはそうは思えないと言う。
その日ヴァランダーは、退職を決意し、医者とビュルク署長に電話で辞職の意を伝え、辞職届けを出すために1週間後イースタに戻って来た。しかし、ステン・トーステンソンが銃殺されたことを知り、辞職の手続きをするために会ったビュルクに復職を告げ、トーステンソンの事件捜査担当を希望する。


Amazonの『笑う男』のページ

ヴァランダーが朝起きて寝るまで(あるいはほとんど寝ないで翌日を開始するまで)が人物を描くドキュメンタリーのように描かれている。そこに、スウェーデン人、スウェーデンの警察官の生活を知っていく楽しみがある。地方都市で警察官、離婚して独り暮らしの中年男性で、事件を追っている最中はほとんど私生活と呼ぶべきものがないのだが。
でも、これがむしろ私には親しみが湧きやすいのかもしれない。『氷姫』のエリカのように、作家としての野心を持ちながらも、おいしそうな手料理を作り、おしゃれ、ダイエット、恋愛に心を砕く人物や、『消えた少年』のマリアのように、何より気にかかるのは子どものこと、次に仕事と恋愛という人物より、殺人事件という重要案件を前に、他のすべてを脇に押しやって生活するような人物(ヴァランダー)というのが、自分に近いと感じられる。自分はヴァランダーのように社会的に重要な仕事をしているわけではないが、納期に追われて仕事をしていると、他のことは脇に押しやって生活しているから。読書が寝落ちるまでのわずかな時間の楽しみだ。

ヴァランダーは、特に本作ではほとんどの日を朝早くから夜遅くまで捜査に打ち込んでいる。この勤勉さも好感が持てる。

本作には女性刑事、アン=ブリット・フーグルンドが登場する。警察学校で優秀な成績を修め、全国の警察署に望まれながら、本人が希望してイースタ署に配属されたという。
ヴァランダーは、女性であり新しい世代の人間であるフーグルンドを同僚として扱うことに戸惑いを感じながらも、率直にその能力を認め、取り立てていく。というところも、好感だ。
これを読んで、90年代に会ったある女性を思い出した。その女性は、男社会を思わせる業界の一流企業に入社し、本社の広報部門に配属されたという。しかし、女性ゆえに彼女の働きは妨害され評価されなかったため、辞めたという。私は自分がフェミニストだと思うが、彼女の言うことは違うのではないかと思っていた。女性ゆえに差別されたのは真実かもしれないが、そこをなんとかして関係を構築して仕事で成果を上げられなかったのは彼女の能力の問題と受け止めるべきことではないかと。少なくともそれを環境のせいにして言ってまわるのは彼女のプラスにはならないように思えた。
その点、フーグルンドは、先輩刑事に明らかな嘘をつかれた際、正しい方法で対処した。怒るヴァランダーを制し余計に事を荒立てることを避けた。小説の中だからできるのだと言えばそれまでだが、賢い女性としてうかがわせる描写だった。

腐敗行為で免職になった元警官、クルト・ストルムが最後にヴァランダーに協力を申し出る。
その理由についてのヴァランダーの解釈が良い。ストルム本人が現にヴァランダーに言っていることではないのだが、ヴァランダーがストルムの人としての倫理を信じているというところが泣ける。

犯人が真相を簡単に告白するというのはちょっとお粗末なように感じるし、ヴァランダーが最後に絶体絶命から逃れたのもずいぶんラッキーなようだけど、全体に面白かったのでOK。

最後になんと、クリスマスにバイバ・リエパがイースタに来るという。『リガの犬』以来、ヴァランダーがプラトニックに片想いしていた相手が。ヴァランダーは手紙を破っては捨てたり、拙い英語で電話を掛けたり、完全に片想いだと思っていたのに。
シリーズ次作、『目くらましの道』で、きっとその様子が描かれているんだよね?
THEME:海外小説・翻訳本 | GENRE:小説・文学 |

煽動者 ジェフリー・ディーヴァー

ナイトクラブのライブ中に火災を思わせる異臭があった。会場を満席にしていた客は会場から出ようと出口に詰めかけたパニック状態になった。結果、死傷者を出した。異臭は建物の外から意図的に送り込まれ、非常口がふさがれ、事故ではなく意図的に起こされた犯罪であったことがわかった。
キャサリン・ダンスは捜査を担当し、同時に再発防止対策も講じるが、群衆のパニックを利用する犯罪は再び起きる。


Amazonの『煽動者』のページ

閉塞された空間で人が命の危険を感じて恐怖の虜になったときに取る行動を想定して仕掛けられる犯罪というのは斬新。

一方、過去に読んだディーヴァー作品と同様、犯人はサイコパスのようであるが、残虐な行為で事故の要求を満たす以外は理性的行動を取る。というより、その実行のために、徹底的に計画を練り、状況を合理的に判断し、計画をうまく進めるためには衝動をコントロールすることができる。
そこが恐ろしさを増加しているのだが、同時に面白さを強化してもいる。

他のキャサリン・ダンス シリーズと同様、キャサリン・ダンスには処理しなければならないその他の問題がいくつか持ち上がる。
その中のひとつ、ダンスの恋愛問題。ダンスの決断に、人間性の疑問を感じた。日本では、ヒロインが取る行動として理解されるだろうか。文化的違いなんでしょうかね。

このシリーズは、キネシクスとしてダンスが巧妙な犯罪者と対峙するというところが一番の見所と考えていたが、今回、それが顕著に発揮されるシーンはなかったなあ。単にダンスがキネシクスを用いて、相手の白黒を判断したり、相手の心理状態を読んだりするぐらい。
だからといって、面白くなかったわけじゃない。

日系人と日系人の強制収容所が出てくる。
戦争中に日本人・日系人にアメリカが政策で行ったこと。『パズルパレス』の原爆投下、NHKのドキュメンタリーの第442連隊戦闘団と日系人強制収容。ここのところ続いている。

約2年ぶりのキャサリン・ダンス シリーズ(そして、ジェフリー・ディーヴァー)。
読み始めてすぐ怖さ、気持ち悪さが私の許容範囲を超えていると思った。それで、もう嫌だと。
でも、読み終わって考えると、人が死ぬところや死んだ様子の描写には、そうそうグロテスクなところはない。
じゃあ、なんでそう感じたかと考えると、ディーヴァーの筆力ゆえなのだろう。つまり、本作はスリラーとして高レベルのスリルを提供している。
(けれども私はスリラーがそんなに好きじゃないんだな、きっと)
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白い雌ライオン ヘニング・マンケル

イースタの不動産業者が売却不動産の査定に出掛けた先で、失踪した。
南アフリカでは、長く収監されていたネルソン・マンデラが釈放されたが、アパルトヘイト(人種隔離政策)は続いていた。動乱期にあるなか、殺し屋のヴィクトール・マバシャは高額の報酬で対象は知らされないまま暗殺の依頼を受けた。マバシャは、依頼主の要請により準備のため、元KGBの協力者、コノヴァレンコとともにスウェーデンに潜入した。
イースタ署に勤める警部ヴァランダーは、不動産業者の失踪を捜査したことから、潜入者たちを追い、追われることになる。


Amazonの『白い雌ライオン』のページ

シリーズの第1作、第2作でもヴァランダーの自信のなさ、弱さが描かれているが、本作で、さらに顕著。
なにしろ、同僚に銃口を向けて精神状態を疑われ、一段落ついたときには、鬱症状で疾病休暇を取っている。
行方を断って、独断で犯人グループと対決を始めてしまうって組織に属する人間としてどうかと思われるところだ(それも身内が人質に取られて、警察に連絡するなと言われた段階では、あり得る行動の選択肢になるのだが)。規律に反しても自分で大きな問題を何とかしようとするという発想は個人的に嫌いだ。

それなのに私は自分でも意外に思うほど、そんなヴァランダーに好意的だ。
理由は、ヴァランダーの自己評価の低さ、そして、それでも物事に前向きに対処しているところにある。
世の中はすごい勢いで複雑化し、人がそこに対応しきれないと感じるのは無理もない。だからといって、それを正当化したり、世の中が間違った方向に向かっていると主張したりするというのは個人的に嫌いだ。前向きさがない。
しかし、ヴァランダーはその事実を受け止め、対応できない不安を正直に認めるが、そんな世の中を批判して正当化はしていないと思う。
その正直さと弱さに惹かれてしまう。
また、よく知らない人の死に対しても、それが殺人によるものであれば強く憤る。それが正義感と言うよりも、人としての情として描かれている。
しょうがない中年のオヤジではあるが、愛すべき男だ。

1990年代のシリーズで、第1作、第2作は東欧だったのに本作では、どうしてアフリカなのだと読む前には思ったが、そうだ、1989年に南アフリカでネルソン・マンデラの釈放があり、90年代にアパルトヘイトの撤廃があった。世界の歴史的な変動をモチーフにするという点で、本作もシリーズの一貫性を維持している。

物語は4月24日に始まり、6月12日に終わる。(プロローグを除いて。プロローグの始まりは4月21日で、やはり4月下旬だ)
つまり、20年以上が経過しているが、季節は今なのだ。
スウェーデン、南アフリカと地理的な違いはあっても、季節の時期的シンクロ感を味わいながら読めた。
南半球である南アフリカの季節は逆だし、スウェーデンは4月下旬ですでに日が暮れるのが遅くなっているという違いを知るのも味わいのうち。
今までの寒々しい描写も悪くないが、春(から初夏?)の描写はいい。4月30日のヴァルボリスメッソ・アフトン(春の祭典)、ヴァランダーの父親の再婚の結婚式の予定の日という夏至祭など、冬が長いこの国でどんなに晴れやかな祭りになるのだろうと想像を膨らませるのも楽しかった。

非常に読み応えがある。1冊だけど、活字が小さく行間が詰まった(19行/1ページ)うえでの700ページ。(先日読んだ上下巻で600ページ(16行/1ページ、活字が2周りぐらい大きい)より何割も文字数が多い。明らかに。
ボリュームがあるのはいいけど、文字が小さく行数が多いと、行から行へと進めるときに、正しい行(次の行)に目が行かないことがしばしば起きる(私だけ?)。なので、最近のでか活字のほうが歓迎できる。
このシリーズを読んでいくにつれ正しい行への目運びができるようになることに期待。
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リガの犬たち ヘニング・マンケル

クルト・ヴァランダー シリーズ第2作
スウェーデンの南海岸沿いに位置する小さな町、イースタの警察署に匿名の電話があった。「まもなく近くの海岸に死んだ男二人を乗せた救命ボートが打ち上げられる」という。電話の予告どおり、ボートは打ち上げられる。
イースタ署に勤める警部ヴァランダーは、この捜査にあたる。間もなく死体がラトビア人とわかり、リガの警察署からリエパ中佐が派遣され、何日かの共同捜査の末、この事件の捜査はリガに引き継がれることになった。
死体はリガへ送られ、リエパ中佐も帰って行った。
しかし、リエパ中佐は殺され、中佐の上司からイースタ警察署に捜査の協力依頼があり、ヴァランダーはラトヴィアに飛んだ。


Amazonの『リガの犬たち』のページ

前作同様陰鬱な話が多い。ヴァランダーはベテラン刑事だが、相変わらず自分に自信が持てず、転職を考えている。有能な先輩捜査官のリードベリはガンで亡くなった。スウェーデンでは南で海岸沿いとは言え、寒そうな描写が続く。
しかし、その上を行く、リガの、ラトビアの陰鬱さ。ソ連支配下の監視社会、貧富の差。
これを読み進めば、事件は解決する。そうすれば、心がぱーーっと晴れる。そんな気持ちで読んでいた。
陰鬱であればあるほど、解決は晴れやかに感じるはず。

また、殺されていた二人の男が抱き合うように横たわっていたというのが、何かいいなあ、真相がわかったときに感動があるんじゃないだろうかと思わせる。

また、ヴァランダーが恋愛感情から、荒唐無稽とも思えるとんでもない決断をして、事件に深入りしていくというところもいい。決断の理由として民主化とか真相究明とかいう大義名分より説得力がある。
その恋愛の行方は、相手の作ったへたな手料理で自分と相手の人間の種類の違いを知るというところで事実上決着したのだろう。うならされた。

犯人のリエパ中佐殺害の理由はちょっと呆気ない。でも、その他の点でハラハラどきどきしたから、まあいいか。

次は『白い雌ライオン

BBCがドラマにしたものも見たいなー。
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機は熟せり ジェフリー・アーチャー

1970年~1978年
バリントン海運会長のエマがヴァージニア・フェンウィックに訴えられた裁判の判決から、ジャイルズが恋したカリンの危機まで。

 
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1970年~1978年というと私の少女時代になる。その頃のサブカルチャーが出てこないので読んでいてあんまり実感なかったけど。(セブのデートはバレエで演目は白鳥の湖だった)
ハリーとエマの息子、セブは私よりずっと年上で、私はその娘のジェシカの世代なんだなと確認。

アーチャーの作品は主人公に試練が数々あるもののそれらを乗り越え大成功。その分、バランスを取るかのようにバイプレーヤーに不幸が襲いかかる。
本作品の場合、ジャイルズとセブが割を食っていないか。女運が悪い。特にジャイルズ。
そう、ジャイルズと言えば、元妻のヴァージニア、活躍というか暗躍しすぎ。一族に関係ないところまで描かなくてもいいのではと思ったり。ジャイルズと結婚していたたから、一族の扱いなんだろうか。それにしてもレディーなのに浅ましい。レディーなんだから、ちょっとはレディーらしく振る舞ってくれてもと思うけど、そういうキャラクター付けになっちゃっているのよね。

次がシリーズ最終。This Was a Man。Amazonにはすでに英語版を読んだ人のレビューが書かれていて、おっと、中身がわかっちゃう…。でも、「なか見!検索」で、6部の最後のクリフハンガーがどうなったか確認。

前回新潮文庫を読んだのはクリフトン年代記の第5部だったはず。新潮文庫は文庫でも紐のしおりが入っているところが便利でいいと毎度思う。
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ミレニアム 4 蜘蛛の巣を払う女 ダヴィド・ラーゲルクランツ

人工知能研究者のフランス・バルデルは、突如アメリカからスウェーデンに戻り、元妻と再婚相手の元から自閉症である息子のアウグストを連れ出し、ストックホルムの自宅に引きこもっていた。公安警察の分析官、ガブリエラ・グラーネから「身に危険が迫っている」と警告を受け、自宅から警察が用意する隠れ家に避難するように言われ、さらに、一種の生命保険だと思ってバルデルが知っている秘密をマスコミに話すように勧められる。嵐のその夜、家に設置したセキュリティー・アラームが鳴り、セキュリティー会社の当直から電話があり、侵入者がいると言われる。
バルデルはミカエル・ブルムクヴィストに電話を掛け、ミカエルは夜中にタクシーでバルデルの家に向かった。

一方、リスベット・サランデルは、NSA(アメリカ国家安全保障局)へのハッキングに成功し、暗号化された内部文書を盗み出した。


Amazonの『ミレニアム 4 蜘蛛の巣を払う女 (上)』のページ

ミレニアムの続編が出ていた! 私が3(と『ミレニアムと私』)を読んで間もなく。遺稿から書き起こされたものと期待したが、残念ながら違うらしい。出版社からこの作者、ダヴィド・ラーゲルクランツに新たに続編を書き起こす持ち込まれたそうな。
著作者人格権をめぐってはラーソンの事実婚のパートナーと遺族(父親と弟)がもめていたということだったけど、これが出て、「謝辞」に父親と弟の名前が出ていると言うことは、パートナーは負けたということになるのだろう。気の毒。

と、思ったせいかどうか、手にしてからしばらく読む気になれなかった。開くのが重いというか…
でも、読み始めたら、読み進めるのは早かった。
ちょっとネタばらしになる…アウグストにサヴァン症候群の特別な才能があるとわかる、バルデルに身の危険が迫る、リスベットがNSAにハッキングする、ミカエルがバルデルの家に着く、リスベットが殺し屋の手からアウグストを救い出す、NSAのセキュリティー管理最高責任者であるエドウィン・ニーダムがリスベットを追う手掛かりとしてスウェーデンに来てミカエルに会う…それから結末まで、上下巻700ページがあっと言う間。

けちを付けたいところはいろいろある。訳文は重訳だという以前の方がよかったとか、ホルゲル・パルムグレンにリスベットの過去をぺらぺらしゃべらせすぎだとか、リスベットの行方不明の妹の役はこれで正解だったのかとか。

でも、とにかく面白いし、よくできている。
リスベットとアウグストとの心の交流が泣かせる。

これが(スウェーデン語で)出てから、そろそろ2年。5が読みたい。
それと、ラーソンの遺稿の完成版も(結局、遺稿はどうなったんだろう。ダヴィド・ラーゲルクランツが遺稿を読んだという話はまったく出てこないので、今でもラーソンのパソコンの中に入っていて、そのパソコンをラーソンのパートナーが所持しているのだろうか)。
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プロフィール
自分的に人生で一番の読書ブーム到来。 忘れっぽいので、読んだ本のログをとることにしました。 題名だけじゃ、内容を覚えられなくて、読んだことすら忘れるほどの忘れんぼ。
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